IBGEは2010年に名前の統計を取りました。以下の名前は、その中で最も多かった名前の上位10件です。
順位 | 日本語 | ポルトガル語 | 人数 |
1 | マリア | Maria | 11,734,129 |
2 | ジョゼ | José | 5,754,529 |
3 | アナ | Ana | 3,089,858 |
4 | ジョアン | João | 2,984,119 |
5 | アントニオ | Antonio | 2,576,348 |
6 | フランシスコ | Francisco | 1,772,197 |
7 | カルロス | Carlos | 1,489,191 |
8 | パウロ | Paulo | 1,423,262 |
9 | ペドロ | Pedro | 1,219,605 |
10 | ルーカス | Lucas | 1,127,310 |
マリアさんが、2位を大きく離す圧倒的な多さです。
この記事では、ブラジルで人気のある名前10位までの由来などをご紹介します。
マリア(Maria)
マリアの語源は不確かですが、ヘブライ語の「Myriam」に由来するのではないかと言われています。「純潔」「高潔」「清廉」などの意味があります。
ブラジルで最も人気がある理由は、言うまでも無く「聖母マリア」の存在が大きいです。
マリア単独ではなく、2つの名前を結合した名前もポピュラーです(例えば、Maria EduardaやMaria Fernandaなど)。また、男性の名前に使用されることもしばしば見られます(例えば、João MariaやJosé Mariaなど)。
ついでながら、Mariaを反対から読んだらAiramになりますが、アイラムさんは522人いるようです。このブラジル人のいい加減さが好きです。
なお、フランス読みのMarieは2,364名、英語読みのMaryは16,798名でした。
ジョゼ(Jose)
ジョゼはヘブライ語の「ヨセフ(Yosef)」に由来しています。「神が加護する」という意味があるようです。
中世ユダヤ人に良くつけられた名前です。有名どころとしては、旧約聖書に出てくるヤコブとラケルの息子で、エジプトでファラオの右腕となり、ユダヤ人を飢饉から救った人として有名なヨセフがいます。
他には、聖母マリアの配偶者でイエスの養父である聖ヨセフ、イエスの十二使徒のひとりのヨセフが有名です。
ちなみに、「イースター」はエジプトのヨセフにルーツがあります。
アナ(Ana)
もともとはヘブライ語「ハンナ(Hannah)」に由来する名前で、「神の恵みに満ちた」という意味があります。
聖書にも同じ名前の人物が登場します。有名なのは、聖母マリアの母親、高齢出産をしたことで知られる預言者サミュエルの母親、そしてイエスが救世主であることを預言した女性などが居ます。
聖アンナ(聖母マリアの母)の影響により、西洋のキリスト教徒の名前として非常に人気があります。
ジョアン(João)
ジョアンもヘブライ語(Iohanan=ヨハナン?)由来の言葉で、アナ同様に「神の恵みに満ちた」といった意味があります。ユダヤ人には一般的な名前で、その後、キリスト教徒もこの名前を付けるようになりました。
日本語だと「ヨハネ」、英語だと「ジョン(John)」、スペイン語では「フアン(Juan)」、イタリア語だと「ジョバンニ(Giovanni)」、アイルランド語では「ショーン(Sean)」と呼ばれています。
名の知られたジョアンとしては、新約聖書に登場する「洗礼者ヨハネ(João Batista)」が有名です。預言者ザカリアの息子で、イエスを洗礼したことで知られています。
他にも、イエスの弟子で「ヨハネの黙示録」を記したジョアンも有名です。
ポルトガル王国アヴィス王朝の創始者は「ジョアン1世」と言います。「ジョアン六世」の時にポルトガル王室はブラジルに遷都しています。
アントニオ(Antonio)
さて、ここまで全ての名前はヘブライ語由来でしたが、ようやくヘブライ語以外に由来する名前が登場です。
アントニオは、ギリシャ語のAntóniosに由来し、「計り知れない価値がある」といった意味があります。
アントニオという名前は、エジプト生まれの「聖大アントニオス(貧しいものに財産を分け与え、砂漠で祈りと苦行の生活を送った聖人)」の影響でポピュラーになりました。
ブラジルにおいては、リスボンの聖アントニオが「結婚の聖人」として有名で、6月13日は聖アントニオの日としてセレモニーが行われます。
フランシスコ(Francisco)
フランシスコの名前はラテン語由来で「フランスから来た者」という意味があります。
この名前の由来は、イタリア、アッシジ市で生まれた聖人、「アッシジの聖フランシスコ」に関係しています。フランス贔屓のイタリア人男性が、ジョバンニという洗礼名の息子の名前を改名し、「フランシスコ」と名付けました。これが、後の聖フランシスコです。聖フランシスコの人気と比例して、「フランシスコ」という名前が中世ヨーロッパで人気になりました。
「アメリカ大陸」の名づけ親になったことで有名な、イタリア人のアメリゴ・ペスプッチがブラジルにやってきた時、東北伯にある河を聖フランシスコの命日に発見し、「サンフランシスコ河」と名付けました。サンフランシスコ河は、水源から河口までブラジルのみを流れる河としては、ブラジルで最も長い河です。
フランシスコという名前の男性は、ブラジルでは愛称として「シッコ(Chico)」と呼ばれることが多いです。
カルロス(Carlos)
カルロスといえば、私の中では真っ先に「カーロス・リベラ(あしたのジョーの登場人物)」が頭に浮かびます。
カルロスは、ゲルマン語に由来し、「男性」「戦士」といった意味があるようです。
カルロスという名前が人気になったのは。「ヨーロッパの父」とも呼ばれるフランク王国の「カール大帝」によるところが大きいです。ヨーロッパ諸国の王族の名前としても好まれました。
パウロ(Paulo)
パウロという名前はラテン語の「Paullus」に由来し、「背が低い」「小さい」という意味があります。ローマ人には、身体的特徴から命名する文化があったようで、そのような名前のひとつです。
パウロという名前が有名になったのは、もちろん、サンパウロ(São Paulo)=聖パウロによるところが大きいです。
聖パウロは、新約聖書に収録される27書簡のうち、実に13書簡(いわゆる「パウロ書簡」)を記述した聖人です。
聖パウロは、もともと「サウロ」という名前でキリスト教を積極的に迫害していました。
新約聖書の使徒行伝9章によると、サウロが、ダマスコの近くにきたとき、突然、天から光がさして、「サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか」とイエスが呼びかける声を聞いたといいます。この後、サウロは目が見えなくなってしまいます。
キリスト信者のアナニアという人が、手をサウロの上において、「兄弟サウロよ、あなたが来る途中で現れた主イエスは、あなたが再び見えるようになるため、そして聖霊に満たされるために、わたしをここにおつかわしになったのです」といって祈ると、たちどころに、サウロの目から、うろこのようなものが落ちて、元どおり見えるようになりました。
キリストの熱心な迫害者であったサウロは、この後、洗礼を受けパウロと改名し、こころを改め、今度は初期キリスト教の重要なリーダーとしてキリスト教の普及に生涯を捧げました。
これは「目からウロコ」の由来になったエピソードとしても有名です。
スペイン語ではパブロ、フランス語ではポールと呼ばれています。
ペドロ(Pedro)
ペドロの語源はギリシャ語のPétrosで、その意味は「石、岩」です。現代ポルトガル語においても、石はPedraといいますね。
最も有名なペドロは、イエスの一番弟子の聖ペテロです。有名なバチカン市国のサン・ピエトロ寺院は、ペテロの墓所に建てられたものだと言われています。
漁師だったペテロは元々、シモンと呼ばれていましたが、イエスによって「ペテロ」と改名されました。聖書においては、水の上を歩いているときに怖くなって溺れかけたり、イエスが捕らえられた時に「私は知らない」と3回拒否したりと、その弱さを描いた逸話が数多く記されています。
イエスの死後は、初期キリスト教の屋台骨となった人で、最後はローマにて逆さ磔の刑に処せられて殉教します。
フランス語では「ピエール」、英語では「ピーター」と呼ばれます。
ルーカス(Lucas)
ルーカスは、ギリシャ語のLoukásに由来しています。「ルカニア人」という意味があります。イタリア地図を見るとブーツのような形になっていますが、ルカニアというのは、ちょうど土踏まずの当たりに位置した地域です。
ルカニア人というのは、「光」という単語に由来しています。ポルトガル語でも、光は「Luz」なので、何となく似ていますね。
ルーカスは、四福音書のひとつ、「ルカの福音書」の作者としてその名が知られています。ルカの職業は医者で画家でもありました。パウロに出会ってキリスト教徒になり、パウロとともに長く宣教の旅をした人です。
医者や画家の守護聖人と考えられており、世界中にルカの名前を冠する病院が見られるのは、そのためです。東京築地にある「聖路加国際病院」にも、ルカの名前がつけられています。
以上、長々と解説してきましたが、ブラジルで人気のある名前上位10位のうち、実に9件がキリスト教に関係のある名前という結果でした。人名に限らず、ブラジルの地名、祝日、文化にはキリスト教に由来するものも多いです。
ブラジルで生活するなら、一度は聖書を読んでおいたほうがよいでしょう。