モーセも驚き?ブラジル「シマホン」の十戒とは?

ブラジル料理

画像:Azeitona amk

日本コカ・コーラが「太陽のマテ茶」を販売したこともあり、「マテ茶」をご存じの方も多いかと思います。このマテ茶は南米の先住民の文化に由来するもので、特に南部(ブラジル南部、アルゼンチン、チリ、ウルグアイ、パラグアイ)にて広く愛飲されています。

ブラジルでは特にリオグランデドスウ州の人々(「ガウーショ」と呼ばれます)の飲み物として知られています。他にも、パラナー州、サンタカタリーナ州などにも愛飲者が多いです。

スペイン語圏では「マテ茶(mate)」という呼称がポピュラーですが、ブラジルでは「シマホン(chimarrão)」と呼ぶのが一般的です。

この記事では、このシマホンについてご紹介します。

「シマホン」は「野生化した家畜」というスペイン語に由来

シマホンという単語はスペイン語の「cimarrón」に由来します。現代ポルトガル語辞典によると、シマホンの意味は下記の通り定義されています。

① 野生化した(家畜)、野犬
② 砂糖を入れていない[マテ茶・飲み物]

マテ茶の他、砂糖が入っていないコーヒーや紅茶についても「シマホン」と呼ぶことができることになっていますが、筆者はマテ茶以外を指す言葉として「シマホン」が使われているのを聞いたことはありません。

ブラジルにおいて、マテ茶がシマホンと呼ばれるようになった経緯は調べてもよく分からなかったのですが、砂糖を入れない苦いお茶が「野生的な味だから」といった経緯なのではないかと推測しております。

先住民たちが飲んでいた「シマホン」

シマホンは、スペイン・ポルトガルからの入植者が南米大陸にやってくる以前から、南部に住む先住民によって飲まれていました。

先住民は、タクアラ(taquara)と呼ばれる植物(竹)で作ったタクアピ(Tacuapi)という器具をストローのようにしてシマホンを飲んでいました。この飲み方は、南米への入植者にも受け継がれ、現在でもボンバ(bomba)と呼ばれるストロー状の器具を利用して飲むことになっています。

また、茶葉を入れる器は竹、牛の角、木などが素材として利用されていました。

禁止され、奨励された「シマホン」

後述しますが、シマホンの飲み方には一定の作法があります。先住民たちは、家族や仲間と集まってシマホンを飲む習慣がありました。これを見たイエズス会の宣教師たちは、シマホンはキリスト教ではない「野蛮な儀式」であるとみなし、マテ茶を「悪魔の葉(erva do diabo)」であるとして、一時期その飲用を禁止しました。

その後、アルコール摂取量を控えさせる目的で、手のひらを返したようにシマホンの飲用を奨励するといったことも行われています。

「シマホン」の正しい飲み方

日本では、お茶は急須から湯飲みに注いで飲みますが、シマホンの飲み方は急須にストローを指して飲むイメージです。正しい飲み方は次の通りです。

  1. クィア(cuia)と呼ばれるヒョウタンなどから作られた器の2/3までマテ茶葉を入れる。
  2. クィアの上部を手のひら等で蓋をしながら傾け、茶葉を片方の壁に寄せる。
  3. クィアを傾けて隙間のできた部分にぬるま湯(60~70ºC程度)を注ぐ。
  4. シマホンを飲むためのストロー(ボンバ(bomba)と呼ばれる)をクィアに差し込む。茶葉に空気が入らないように、ボンバの飲み口を指で押さえて挿入する。5分ほど蒸らすとシマホンを飲むことができる。

クィア(André Karwath

ボンバ(André Karwath

「ホーダ・ド・マテ(roda do mate)」とは?

シマホンは、何人かで集まって楽しむ飲み物とされています。

先住民が、コミュニティの儀式の際に回し飲みをしていたことから、現在においてもシマホンには独特な「回し飲み」の作法があります。南部の家庭では、家族が集まった時や、客が来たときにシマホンを飲むことがあります。

シマホンの回し飲みは「ホーダ・ド・マテ(roda do mate)」といいます。

このホーダは、シマホンを淹れた人(通常、家主)から始まります。家主がシマホンを飲み切った後、お湯を入れて次の人に渡します。通常、家主の左隣に座っている人に渡されます。クィアの受け渡しは必ず右手で行われます。

お湯がなくなったときは、家主に空になったクィアを右手で手渡します。この時「ありがとう」というと、もうシマホンは飲まないという意味になるため、おかわりの時には「ありがとう」は言わないことになっています。

モーセも驚き?神は「シマホンの十戒」を授けられた?

日本の茶道のように、ブラジルにも「シマホン道」とも呼ばれる作法があります。

ポルトガル語では、「シマホンの十戒(Os 10 Mandamentos do Chimarrão)」と呼ばれています。最後に、シマホンの十戒を紹介してこの記事を締めくくりたいと思います。

1 – 絶対に砂糖を入れてはいけない

ガウーショは、小さいころからなぜシマホンが「苦いマテ(mate amargo)」という別名で呼ばれているか教えられてきたはずだ。ガウーショなら、シマホンに砂糖を入れることがどんなに罪深いか理解しているはずだ。シマホンが苦すぎると感じるなら、ストローをさしたコカ・コーラでも所望するがよい。

2 – シマホンが不衛生だなどと言うな

シマホンの回し飲みで、間接キスをすることが不衛生だと思うかもしれない。その通りだ!だが、汝にはシマホンを不衛生だなどと冒涜することは許されていない。そのように考えるなら、ストローをさしたコカ・コーラでも所望するがよい。

3 – 湯が熱すぎるなどと不平を言うな

皆が何も言わずに回し飲みしているということは、シマホンの温度は適切であるということの証左だ。湯が熱すぎると思うのであれば、それは汝の感じ方が誤っているのだ。

4 – 最後まで飲み干せ

クィアに満たされた全てのお湯を「ズコッ」という音(ronco)が鳴るまで飲み干せ。

5 – 「ズコッ」という音(ronco)を恥ずかしがるな

お茶を最後まで飲み干すと「ズコッ」という音(ronco)が鳴るが、誰も汝が無作法な人間だと思いはしない。音を立てずに飲みたいのであれば、ストローをさしたコカ・コーラでも所望するがよい。

6 – ボンバ(ストロー状の器具)でかき混ぜるな

ボンバは、茶葉が詰まりやすいものだ。ボンバが詰まった場合、汝には家主にそれを訴える権利がある。決してボンバで茶葉をかき混ぜるようなことはしてはならない。

7 – ホーダの順番を勝手に変えるな

クィアは、決められた順番で手渡されるものである。汝が新たにホーダに参加した時、汝の番が回ってくるのを待て。誰かが優先されるようなことはあってはならない。

8 – 家主が最初の一杯を飲むことに文句を言うな

家主が最初の一杯を飲むことが、無作法であると思うなら、そのような汝が無作法なのだ。最初の一杯はまずい。家主はそれを知っているので2杯目以降のシマホンを汝に渡すのだ。

9 – クィアを回せ

ホーダでシマホンを飲み、会話楽しみ、議論を交わすのはよいことだ。しかし、話に夢中になるあまりクィアを次の人に回すのを忘れてはならない。

10 – シマホンは食道がんの原因だなどと冒涜するな

シマホンを飲むときにはがんのことは忘れろ。どうしても忘れられないなら、ストローをさしたコカ・コーラでも所望するがよい。

最後の「戒め」を補足すると、ガウーショには、食道がんになる患者が他の地域に住む人々よりも5倍も多いそうです。マテ茶自体に発がん性があるというよりも、熱すぎるシマホンを飲むことが食道がんの発症率を高める原因で、マテ茶自体は健康に良いものと考えられています。



ブラジル余話の更新をメールでお知らせ

メールアドレスをご記入頂ければ、サイトの更新をメールでお知らせいたします。ご登録して頂けると嬉しいです!(登録後の購読の解除も簡単にできます)