カポエイラに必要不可欠な楽器であり、ジョーゴ(試合)のリズムを決定する重要な楽器に、「ビリンバウ(berimbau)」と呼ばれるものがあります。
「ビリンバウはカポエイラで使用する楽器」として認知されることも多いですが、実はそのルーツはカポエイラよりも遥かに古く、2万年以上前から存在していたとも言われています。
前回の記事で、カポエイラがアンゴラの成人式「エティフンドゥーラ」に由来するという話を紹介しましたが、この儀式でもビリンバウが使用されていたそうです。
この記事では、この「ビリンバウ」にスポットライトを当ててみたいと思います。
「ビリンバウ」とは何か?
ビリンバウは、弓のようにしなった木に一本の弦が渡されただけのシンプルな造りとなっています。下の方に取り付けられた空洞の瓢箪は、音を共振させ大きくする役目があります。
弓の部分に使用されるのは、「ヴェルガ(verga)」と呼ばれる柔軟性と強度に富む素材です。ヴェルガは、ブラジル東北部に多く自生する「ビリバ(biribá)」と呼ばれる木から採取されます。ヴェルガの長さは、160cmほどで日本人女性の平均身長くらいあります。
このヴェルガに、「アラーミ(Arame)」と呼ばれる弦が張られます。アラーミはお店で買うこともできますが、ブラジル人は車の古タイヤの縁からカッターで切りだしたアラーミを使う人もいます。興味のある方は「タイヤからアラーミを取る方法(Como tirar o arame do pneu para fazer berimbau?)」と検索してみてください。
弓の下部に取り付けられる瓢箪は「カバッサ(Cabaça)」とよばれ、ブラジルではマラカス、器、人形などを作るのに利用されています。カバッサが大きいほど低く、大きな音が出ます。
ビリンバウの奏者は、左手に「ドブロン(dobrão)」と呼ばれるコインを持ち、ビリンバウを固定して弦をおさえます。ドブロンには、小石や古い硬貨が使われることもあります。右手で「バケッタ(Baqueta)」と呼ばれるスティックを持ち、弦に当てて音を鳴らします。
右手の指には、「カシシ(caxixi)」という小さなマラカスをはめてリズムを刻みます。
ドブロン、バケッタ、カシシ
Wikipedia
以上が、ビリンバウの概要です。
名前の由来
「ビリンバウ」は、アンゴラで話されているバントゥー語族のキンブンド語(quimbundo)の「mbirimbau」に由来しています。
ちなみに、ブラジル人が大好きな「ブンダ(お尻)」という単語も、このキンブンド語の「mbunda」に由来します。詳しくは下記の記事をご参照ください。
もともとは狩猟用の弓だった?
ビリンバウの歴史は定かではない部分も多いのですが、古くは2万年前から存在し人類が演奏した初期の楽器のひとつとも、もともとは狩猟用の弓だったとも言われています。アフリカの特定の地域では、宗教的な式典や葬儀などの演奏に使用されます。ブラジルには16世紀の初めにアフリカ奴隷とともにやってきました。ブラジルでも、アフリカ同様に儀式の際に使用されたほか、解放奴隷の行商人が客の注意を引くためにビリンバウが利用されたとも言います。
カポエイラでは、ビリンバウはジョーゴ(試合)のリズムを決定する重要な存在です。カポエイラ・アンゴーラの中興の祖と言われる「メストリ・パスチーニャ」はビリンバウについて次のように語っています。
(カポエイラにおいて)ビリンバウを忘れてはならない。ビリンバウは、古えの師匠である。音により、バイブレーションやジンガを我々の肉体に教えてくれる。ビリンバウとパーカッションの組み合わせは、つい最近できたものでは決してない。それは原則ともいえるものだ。良きカポエイリスタは、良く動くだけではなく、ビリンバウを弾き、歌うことができなければならない。
“Não se pode esquecer do berimbau. Berimbau é o primitivo mestre. Ensina pelo som. Dá vibração e ginga ao corpo da gente. o Conjunto de percussão com o berimbau não é arranjo moderno, não, é coisa dos princípios. Bom capoeirista, além de jogar, deve saber tocar berimbau e cantar.”
口琴(berimbau de boca)
これまで説明してきたビリンバウは、「胸のビリンバウ(berimbau de peito)」と呼ばれることもあり、他に「口のビリンバウ(berimbau de boca)」と呼ばれる楽器があります。
こちらは、アフリカではなくアジア発祥の楽器で、日本語では口琴(こうきん)と呼ばれます。ブラジルには、ヨーロッパ人経由で16世紀頃に伝わったと考えられています。

気になるかたは、動画でその音色を聞いてみてください。口のビリンバウと呼ばれる所以がわかります。
インドにも伝わるビリンバウ
インドに住むアフリカ移民「シッディー(siddhi)」は、ビリンバウに非常によく似た楽器「マルンガ(malunga)」という楽器を演奏します。マルンガは、竹で作られた弓に弦が張られ、カバッサではなくココナツで作られた楽器で、ビリンバウ同様に宗教的儀式などで演奏されるそうです。