清きイッピョーはカネで買え?ブラジル独特の選挙

宮崎県在住のブラジル人、アレックスさんとボルサ・ファミリアについて話しているときに、カブレスト投票(voto de cabresto)という言葉を教えてもらいました。

カブレスト投票とは何か

カブレスト投票とは、20世紀初頭に地方の有力地主が、選挙に当選して政治的権力を握るために、自らの使用人に対して自分に投票するように強制したことをいいます。カブレスト(cabresto)というのは、ラテン語の Capistrumに由来しており、「口輪、轡(くつわ)、手綱」などを意味します。飼いならされた者(使用人)を悪用して投票させることから、カブレスト投票といわれるんですね。
2016-05-04_2013
(※)ブラジルにおいて、ロバは愚か者という意味があります。

20世紀初頭、選挙で投票するためには、紙に候補者の名前を記入して投票箱に入れるだけで良かった時代がありました。投票用紙に特に決まりはなく、家から持参した紙でも投票できたそうです。

土地の有力者である地主は、候補者の名前(すなわち、自分の名前)を書いた紙を使用人たちに配り、選挙会場で投票させたのです。当時の使用人たちは文盲でしたから、地主は使用人に署名だけさせたのです。(当時、文盲の人は投票できないことになっていたので、これは違法行為でした。)文盲の使用人たちは、何が書いてあるか分からないまま投票箱に紙を入れました。

ブラジル内陸部ではこのカブレスト投票が良く行われていました。地主が、経済力を活かして票を集め、支配地域の知事に就任することにより、より大きな権力を行使することができたのです。

1930年にジュトゥリオ・ヴァルガス(Getúlio Vargas)政権になってから、この不正な投票は少しずつ改善されていきました。1932年に初めて選挙人番号が発行されるようになり、誰に投票したのか分からない制度にしました。1996年には、電子投票制度が導入され、かつてのような不正は難しくなりました。

参考サイト:ブラジルの歴史/カブレスト投票

ボルサ・ファミリアは21世紀のカブレスト投票?

ルーラ政権の時に導入されたボルサ・ファミリアは、21世紀のカブレスト投票とも言われています。フォーリャ・デ・サンパウロの記事「ボルサ・ファミリアがブラジル北東部で新しいカブレスト投票となる(Bolsa Família sustenta novo voto de cabresto no Nordeste)」に具体例が載っていたので、ちょっと古い(2008年)ですがご紹介します。

セアラー州のアコピアラ市のアントニオ・アルメイダ知事の要請により行われた選挙に関する調査の際に、質問を受けたマリア・アパレシーダさんは調査員と次のようなやり取りをしました。

「貴殿またはこの家のどなたかはボルサ・ファミリアを受給していますか?」
「はい、わたしが受給しています。」と、マリア・アパレシーダさんは答えました。
その後、選挙に関して2つほど質問があり、次の知事選で誰に投票するかという話になりました。
「わたしが、ヴィウマー(現知事の対抗馬)に投票すると行った時、調査員は、給付金を失うことが怖くないんですか?という質問をしてきました。給付金を受ける権利を失うのではないかと、非常に怖くなりました。」とマリア・アパレシーダさんは述懐しました。

ジウマ大統領は、野党攻撃の武器に

2016年のメー・デーにおいて、ボルサ・ファミリアの金額を平均9%増額する発表をした時、ジウマ大統領は自分を大統領職から除こうとする者(i.e.テメル副大統領)が、ボルサ・ファミリアの適用範囲を狭める可能性があるとし、民衆の恐怖を煽っていました。

この発言は、解釈によっては「次の大統領選挙が行われた時に、労働者党(与党)に投票しないと、あなたが現在受け取っているボルサ・ファミリアの権利は失うかもしれないですよ。」と脅迫しているとも取れます。

ボルサ・ファミリアは、貧困層の救済という美しい建前がある一方、貧困層が一度その恩恵を受けると、麻薬のように効いてしまい、与党以外に投票できなくなるという作用が働くという側面があります。