ブラジル乾燥地帯の聖なる植物、ウンブー

ブラジル北東部にある半乾燥地帯は、セルトン(sertão)と呼ばれています。セルトンでは滅多に雨が降らず、日差しの強さは日本とは比べ物にならないほどで、時折訪れる厳しい干ばつの際には、生活用水をタンクローリーの給水に頼るような過酷な環境の場所も存在します。植生はサボテン、有棘灌木が多く、西部劇に出てくるような乾燥しきった土に枯れたような木々が生えています。興味深いことに、ひとたび雨が降ると、枯れているように見えた有棘灌木に一気に葉が芽吹き、一面が緑になるという独特な植生を有しています。この植生をカアチンガ(caatinga)と呼びます。同じ植生は世界でもブラジルのこの地域にしかない珍しい場所でもあります。

ブラジルといえば、リオデジャネイロの海岸、大都市サンパウロ、神秘的なアマゾン河、世界最大の湿原パンタナールなどをイメージすることが多いですが、「セルトン」ないし「カアチンガ」もまた、独特な哀愁の漂う文化(フォホー、バケジャーダ、フェスタ・ジュニーナシロ・グラヴーラ等)を形成しています。

セルトンの聖なる木

セルトンの聖なる木(árvore sagrada do sertão)とよばれる植物があります。植物の名前はウンブゼイロ(umbuzeiro)で、その果実はウンブー(umbu)又はインブー(imbu)といいます。1月になると、セルトンではウンブーの果実が大量に実をつけ、街角でウンブー売りの商人の姿を見かけるようになります。

ウンブーという言葉は、先住民のトゥピ・グアラニ語の「ymbu」に由来しており、「飲み水を与える樹(árvore que dá de beber)」と言う意味があります。ブラジル人の同僚に聞いたところ、セルトンではウンブゼイロが飲料水の源泉になるのだと教えてくれました。ウンブゼイロの根元を掘ると、イモ(batata)のようなカタマリがいくつもあります。同僚は、それを「小さいおなか(barriginha)」と呼んでいました。その「小さいおなか」の中には沢山水分が詰まっていて、そのまま飲むことができるのです。ウンブゼイロには「小さいおなか」が沢山付いているので、一つ収穫しても樹が死んでしまうことはありません。このように、セルトンに住む人々の貴重な水分補給の源泉であったため、ウンブゼイロは「セルトンの聖なる木(árvore sagrada do sertão)」と呼ばれるようになったのです。

Youtubeでウンブゼイロの「小さいおなか」を掘り出して食べるまでの様子が紹介されています。興味のあるかたはチェックしてみてください。

カアチンガの多くの植物と同様に、ウンブゼイロは乾季に落葉し、まるで枯れて死んでしまったように見えますが、雨季になって雨が降り出すと青々とした葉を付け始めます。乾季の間は根に溜めた水で生命を保つのでしょう。雨季が始まって、2ヵ月くらいするとウンブーの実が沢山収穫できるようになります。

ウンブー


ウンブゼイロには、ミニトマトくらいの大きさの小さな実が生ります。うす緑色のツルツルした表面に、スイカのような縞模様が少し入っています。熟すと緑色から黄色に変色します。

熟したウンブーを食べてみたのですが、中に巨大な種が入っており、果肉はあまり多くありません。梅干しと似たような強烈な酸味があり、思わず顔をしかめるほどです。実際、日本人移民の方は梅干しならぬ「ウンブー干し」を作って、故国に思いを馳せたというエピソードを日系二世の方から聞いたことがあります。

※ウンブーは酸っぱすぎて美味しくない、という話をブラジル在住の日本人にしたところ、後日、庭になっていたウンブーをおすそ分けしてもらいました。頂いたウンブーは、ブドウを酸っぱくしたようなさわやかな甘みがあり、大変美味しかったです。初めて食べたのはハズレだったのかもしれません。

ウンブーにはビタミンCが豊富で、その他にもビタミン、ミネラルが豊富に含まれています。ブラジル人は、そのまま食べる他に、ジュース、アイスクリーム、ジャムなどにして食べます。ウンブーのビールもあります。ジュースなどの加工品は独特の甘酸っぱさが日本人の味覚にも合うのではないかと感じます。

熟す前のウンブーは、そのまま噛んで食べるか、ウンブザーダ(umbuzada)と呼ばれるジュースにして飲みます。ウンブザーダは、緑色のウンブーをお湯で茹でて柔らかくし、種を取り除いてコンデンスミルクと混ぜて作ります。熟したウンブーは、やわらかくなって水分が多くなるので、そのまましゃぶって食べます。

雨季にセルトンに行くことがあれば、是非味わってみてください。加工された工業製品であれば、時期や場所を選ばずに味わうことができます。マラタ社のウンブー・ジュースは、飲みやすくておすすめです。