ブラジルの格差を描く、アカデミー賞出品ブラジル映画『Que Horas Ela Volta?』

日曜日の午後一時、TV局のグローボにて『Esquenta!(エスケンタ!)』という番組を放送しています。歌と踊りのショーを放送する番組で、2011年から放送されています。司会を務めるのは、ヘジーナ・カゼー(Regina Casé)という豊満な体でハスキーな声を持つ60歳くらいのおばちゃんです。
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2016年にブラジルからアカデミー外国語映画賞に出品された映画『Que Horas Ela Volta?(ママはいつ戻るの?)』は、このヘジーナ・カゼーが主人公を演じています。この映画は、サンパウロの上流家庭とそこで住み込みで働く家政婦とその娘の交流を通して、ブラジルの格差を描いています。派手さはないですが、じんわり面白い映画です。特に、へジーナ・カゼーの演技が面白かったです。

映画のあらすじ(ネタバレなし)

ヘジーナ・カゼー演じる主人公のバウ(Val)はペルナンブーコ州の出身ですが、一人娘のジェシカ(Jéssica)に良い生活を送ってもらうため、10年ほど前からジェシカを母に預けてサンパウロの上流階級の家で家政婦として働いていました。バウの働く家では、一人息子のファビーニョ(Fabinho)がいて、実の母親以上にバウに懐いています。一方で、バウの娘ジェシカはいつも側に居ない母親に不満を感じていました。

ジェシカが18歳になる頃、ジェシカはサンパウロ大学への進学のため、しばらくバウの家に滞在したいと連絡してきました。バウは、サンパウロでアパートが見つかるまでの間、主人であるバーバラ婦人(Dona Barbara)の家に滞在させてもらうことを依頼し、承諾をもらいました。

10年ぶりに見るジェシカは、バウの想像以上に大人になっていました。バーバラ婦人の家に到着すると、バウの生活している狭苦しい部屋を見て、ジェシカはショックを受けます。

ジェシカは、召使いの家族として扱われることを拒否して、対等の立場のように振る舞うものの、その振る舞いが主人との間に軋轢を生むようになります。

映画の見どころ

映画のテーマは「ブラジルの所得格差」なんですが、映画の端々にブラジルに住んだことがある人でなければ分からないおかしさが散りばめられています。

ノルデスチーノ

主人公のバウが典型的なノルデスチーノ(ブラジル北東部に住む人)だと感じるのは、バウが娘に自分の狭い部屋を案内した時の様子からでした。お世辞にも広いとは言えない部屋につつましい家具が所狭しと並んでいたのですが、バウは次のように言うんです。

Essa aqu ó! (ほらこれ見て)
Meu cantinho.(あたしのお部屋よ)
Tá vendo aí!? Ó!(ねえ、見てる?見て!)
Televisão tudo direitinho.(テレビちゃんとしてるでしょ?)
Colchão novinho… Primeira Classe.(マットレスも新品のファーストクラスよ)
Ah! Tá olhando gostar as foi!?(あ、それ気になるよね!)
Essa aqui ó! O espremedor de laranja.(これはね、見て!オレンジジューサーよ)
Ventirador… Um bom que não presta é essa miseria não.
(これは扇風機。唯一役に立たないもの)
Esse tudo comprei pra montar a casinha.(素敵な家にするために買ったのよ)
Eu ama tu!!(ああ、愛してる)

ブラジル人は、 ó! (オー)=見て!とよく言うのですが、これは、サンパウロとかでも同じなんでしょうか。ノルデスチのおばちゃんは良く言っています。バウみたいなおばちゃんは、実際にペルナンブーコ州に居るので、親近感がわいてしまいます。

高級アイスとキボンのアイス

主人公の娘が、勤務先のご主人の家に着いたとき、ご主人の息子の高級アイスクリームを食べようとして、母親に叱られます。「それは、パトロンのアイスクリームだから食べちゃダメ!私たちのアイスクリームはこっちよ!」と言って、バウが示したのは、ブラジルに住んだことがある人ならお馴染み(?)のキボン(KIBON)のアイスの箱です。

キボンのアイスって、大きいプラスチックの箱に入っているわりに、安いんですよ。しかも、このキボンのプラスチックの箱は、サイズ的にも丁度いい感じなので、食べ終わったあとも、各種の収納ケースとして利用されることが多いです。ブラジルの一般家庭なら、キボンの箱が一つはどこかに転がっているんじゃないかなあ。

何から何まで家政婦がやる

家政婦を雇っているブラジル人家庭では、料理、洗濯、掃除、洗い物、全てを家政婦がやってくれます。日本人から見て、一部のブラジル人が無責任に見えるのは、彼らが自分でやったことは自分で片づけるという習慣を子供のころに経験していないからなんですね。この映画では、そんな家庭の様子が垣間見えます。

手前味噌ですが、ぼくは一人暮らしが長いので、料理、洗濯、掃除、洗い物全てできるとブラジル人の女性の同僚に言ったら、「Homem completo(完璧な男性)」だと言って驚かれました。

主人公の訛り

主人公を演じるヘジーナ・カゼーは、リオデジャネイロ出身の女優ですが、主人公のバウは、ペルナンブーコ州出身という設定です。バウの喋り方がペルナンブーコ州のアクセントや方言になっているのが同州に住む自分としては面白かったです。非常にマニアックな話ですが、レシフェの人は、2人称過去形を言う時に独特な表現をします。例えば、理解した?を意味する「Entendeu? (エンテンデウ?)」を「Entendesse?(エンテンデッシ?)」と言います。同じペルナンブーコ州でも内陸部のセルトンでは、このような表現は使いません。

残念ながら、日本語版はないですが、英語版はあるみたいです。アカデミー賞出品作ですからね。

The Second Mother
The Second Mother

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