聖人?ぺてん師?シセロ神父を巡る論争が終結?

ブラジルにある大きい石像と言えば、真っ先に頭に浮かぶのはリオデジャネイロのキリスト像ですよね。あるブラジル人が書いたブログのランキングによると、キリスト像は38メートルで、ブラジルで三番目に大きい石像のようです。また、ブラジルで最も大きい石像は、小売企業のHAVANのシンボルでもある自由の女神像(57メートル)らしいです。

ブラジルには自由の女神像が100体近くあるって知ってました?
ある日の夕方、一日の仕事を終えて自宅に帰る車に乗って何気なく前を見ていたら、いつもとは違う異様な光景が目に飛び込んできました。それは、ピンク色に照らし出された神殿と、40メートルの巨大な自由の女神像です。 ベレンに行った時にも中国人の経営する輸...

先ほどのランキングによると、ブラジルで五番目に大きいと言われる石像は、1844年生まれのブラジルの「聖人」シセロ神父(Padre Cícero)の石像だそうです(25メートル)。日本人にはあまり馴染みのない、このシセロ神父という人の石像はセアラー州のジュアゼイロ・ド・ノルチ市(Juazeiro do Norte)に立っています。

シセロ神父とはどういう人か

シセロ神父の名前で今でも敬愛されているブラジルの聖人、シセロ・ホマン・バティスタ(Cícero Romão Batista)は1844年にセアラー州のクラート市に生まれました。この聖職者はセアラー州にあるジュアゼイロ・ド・ノルチ市においては聖人とみなされていますが、カトリック教会関係者からは「ぺてん師(Impostor)」とみなされていたみたいです。ブラジルの歴史において、シセロ神父は大きく評価の別れる人物とされているんですね。

シセロ神父の起こした奇蹟

シセロ神父が「ぺてん師」と呼ばれる原因となったのは、1889年に行われた聖餐式(※)において起こった「奇跡」にありました。シセロ神父がある女性信者に配ったパンが、女性の口の中で真っ赤な血に変わるという「奇跡」が起こったというのです。
(※)聖餐式(せいさんしき)とは、イエス・キリストが最後の晩餐でパンとぶどう酒を弟子たちに与え「パンは私のからだであり、杯は私の血による契約である」といった言葉を記念して、パンとぶどう酒を会衆に分けるキリスト教の儀式、をいう。

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この「奇蹟」は、その後も何度か起きたようで、その度にシセロ神父は信者の口を拭った布に署名をしたものを証拠として残しました。

フォルタレーザ市のジョアキン・ジョゼ・ヴィエイラ司教は、この「奇跡」はぺてんであるとし、議会を招集してシセロ神父の正体を暴こうとしました。ジョアキン司教はヴァチカンの聖職者まで呼んで追及したんですが、誰もシセロ神父の「奇跡」がぺてんであったことを証明できる人がいませんでした。

この他にも様々な「奇跡」を起こして民衆の支持を集めるシセロ神父の行為を見過ごすことができなくなったジョアキン司教は、その後、再び議会を招集しました。教会側はシセロ神父の破門をほのめかしたものの、民衆からの抵抗を恐れて、破門が実行されることはありませんでした。

フランシスコ・デ・アシース・ピレス司教は、シセロ神父の自宅を家宅捜索し、血を拭って署名をした布を焼却処分させましたが、この行為は後で裏目にでて、「奇跡」の成否を証明することを困難にしました。

その後、カトリック教会により、シセロ神父は教会関係の活動から遠ざけられ、奇跡について話すことを禁じられました。聖職者としての活動が禁止されている間に、シセロ神父は政治活動を積極的に行うようになり、1914年にセアラー州の副知事に就任しました。

シセロ神父は1934年に90歳で亡くなりました。葬儀には8万人もの信者が詰めかけたと言います。シセロ神父の巨大な石像は現在でも重要な巡礼地となっています。

フランシスコ法王、シセロ神父の活動禁止令を取り下げ

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シセロ神父
セアラー州教区のフェルナンド・パニコ司教(Bishop Dom Fernando Panico)は2006年にヴァチカンが出したシセロ神父の聖職者としての活動を禁止する命令を取り下げるように嘆願を出していました。それから、9年後の2015年12月13日、ヴァチカンのフランシスコ法王の指示により、シセロ神父に対する処分を取り下げるとの通知がなされました。

シセロ神父が多くの時を過ごしたジュアゼイロ・デ・ノルチは、毎年2百万人以上もの巡礼者が訪れる場所となっており、シセロ神父のカリスマ性は今でも衰えていません。ヴァチカンの赦しを得たことにより、シセロ神父が公式に聖人として認められる日も近いかもしれません。

余談

ジュアゼイロ・ド・ノルチ市は、ぼくの住むペトロリーナからほど近い場所にあるので、シセロ神父の巨大な石像の存在自体は知っていたのですが、その背後に、このような論争があるということは知りませんでした。これも、宮崎県在住のブラジル人アレックスさんに教えてもらった情報です。

宮崎県在住のポ語教師アレックスさんに話を伺いました
このブログを書き始めて一年くらい経ちましたが、ブログを続けていていると思いがけない出会いがあるものですね。先日、2004年から宮崎県に住んでいるというサンパウロ出身のブラジル人、アレックスさんから連絡を頂いて、スカイプをしたんです。話を伺ったところ、...

シセロ神父の熱狂的な信奉者は多いようなので、ブラジルでは冗談でも「ペテン師」だなどと軽々しく口に出さない方がよさそうです。

参考情報
●ブラジルで議論を呼んだ神父がヴァチカンから赦しを得る
●聖人?それともペテン師?シセロ神父が論争を呼ぶ。