大航海時代の栄華が凝縮、ジェロニモス修道院の歴史

リスボンのテージョ河のほとりに立つ世界遺産、ジェロニモス修道院(Mosteiro dos Jerónimos)は荘厳なマヌエル様式が採用された建物で、リスボンを訪れる旅人が必ず足を運ぶ場所の一つです。

何も知らずに訪れた場合でも、十分に楽しめると思いますが、この修道院の歴史的な経緯を知っておけば、より一層楽しめると思います。

ジェロニモス修道院のある「レステロ地区(Restelo)」を地図で見ると、リスボンの西の端、テージョ川のほとりに建設されていることがわかります。

リスボンの玄関口、レステロ地区

修道院ができる前、レステロ地区には小さな集落があるだけの地でしたが、ポルトガルが海洋進出により外国との交易をするようになってから、その重要性が飛躍的に高まりました。レステロに港が建設され、この地からポルトガル人の船が旅立っていったのです。いわば、リスボンの船の玄関口という役割を担うようになったわけです。

航海の安全祈願のための教会が起源

エンリケ航海王子の下、リスボンの玄関口・レステロ地区の港湾開発が進められ、この地に「ベツレヘムの聖母マリア教会」が建設されました。現在、この地域が「ベレン地区(ベツレヘムのポルトガル語読み)」と呼ばれているのは、エンリケ王子が建てた教会に由来しています。ついでながら、聖母マリアはベツレヘムでイエス・キリストを生んだので、ベツレヘムと聖母マリアが教会や地名に関連づけられることがしばしばあります。

インド航路に到達したヴァスコ・ダ・ガマやブラジルを「発見」したカブラルなどは、航海の前にこの聖母マリア教会で旅の安全を祈願しました。

マヌエル1世が修道院を建設

ヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を発見する前年(1496年)、時の国王マヌエル1世は「ベツレヘムの聖母マリア教会」に修道院を建設することをローマ教皇に願い出ました。マヌエル1世は、この修道院を自らの霊廟とし、外国との交易によって得られた富を惜しげもなく投資することによってアヴィス王朝の威厳を示威しようとしたのです。

ジェロニモス修道院の建設は、その5年後の1501年に開始されました。1499年には、ヴァスコ・ダ・ガマがインド航路からポルトガル帰港しており、彼のもたらした香辛料による利益が修道院の建設費用にあてこまれました。その額は、アフリカ・アジア交易からの収入の5%が毎年費やされたといいます。修道院は石灰岩を使用して建設され、約100年の月日を経て完成しました。ジェロニモス修道院は、ルネサンスとゴシックとが調和したマヌエル様式の「宝石」と呼ばれています。

マヌエル1世は、聖ジェロニモス修道士を修道院の管理責任者とし、航海に旅立つ者の魂の慰め役を命じました。これが、「ジェロニモス修道院」と呼ばれる由来です。

ジェロニモスとは何か?

ジェロニモスとは、「聖ジェロニモ」の複数形です。聖ジェロニモの日本語名は、「ヒエロニムス」です。辞書で調べる場合には、ヒエロニムスで調べることになります。ヒエロニムスは、347~420年に活躍したラテン教会四博士の一人で、最大の業績は20年間を費やして作成した聖書のラテン語訳「ウルガダ」の上梓でした。ダルマチア出身(現在のクロアチア南部)で、ベツレヘムで聖書研究を行いました。

リスボン大地震

1755年に起こったリスボン大地震により、リスボンの古い建物は根こそぎ倒壊してしまいました。マヌエル1世が築いた王宮は、この大地震で倒壊して失われています。しかし、中心部から少し離れた場所にあるジェロニモス修道院に関しては大きな被害を免れました。

ヒエロニムス会の解散と世界遺産登録

ヒエロニムス修道会士は、1833年に会が解散するまでの約4世紀にわたってこの修道院に住み続けました。修道会の解散後は、孤児や乞食の更生施設運営機関の管理するところとなり、この期間に貴重な装飾品の多くが失われました。

1898年には、ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路発見400年を記念して、修道院の修築がすすめられ、礼拝堂にはヴァスコ・ダ・ガマと詩人ルイス・デ・カモンイスの墓が設置されました。1983年には、ジェロニモス修道院がユネスコの世界遺産に登録されました。

石灰岩で作られた見事なファサード

写真だと素晴らしさが伝わらないのですが、肉眼で見ると思わず息をのむ程の美しさです。

サンタマリア教会

ヴァスコ・ダ・ガマの棺

まとめ

ジェロニモス修道院は、もともと大航海時代にポルトガル船が出港する港だった場所で、港のほとりに建てられた教会が起源です。その後、ポルトガルの最盛期の王、マヌエル1世がヴァスコ・ダ・ガマのインド航路発見によりもたらされた富を惜しげもなく投資して作られたのが、ジェロニモス修道院でした。リスボンに行く機会があれば、是非ジェロニモス修道院に足を運んで、ポルトガルの最盛期の栄華を感じてみてください。