ブラジル人は物乞いに対しても鷹揚である

アジアの色々な国で物乞いに出会ったことがありますが、ブラジルほど物乞いに寛容な国はなかったように思います。

八百屋の前にいつも居る本位田の婆さん

我が家では毎週土曜日の午前中に野菜などを買いに行くのですが、八百屋の入り口の前にいつも、70歳くらいの婆さんが地面に座って物乞いをしてきます。見た目は漫画『バガボンド』に出てくる本位田又八の母親に似ており、剛腹な態度も似ています。八百屋に入るときと出るときにこちらを睨めつけてきて、訛りが強すぎる声で、「何か寄こせ。」という意味のことを言ってきます。
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店に行くたびに婆さんに睨まれるので、つい婆さんと目が合わないようにしてしまいます。日本だったら、営業妨害として注意されそうなものですが、店のブラジル人は一向に注意する気配がありません。同じ婆さんは隣のパン屋にも出没し、買い物を終えた客にパンを寄こせとねだるのですが、やはり店のブラジル人は注意しません。

そのスパゲティー、食べる?

レストランでお昼ごはんを食べていた時のことです。日焼けした顔にしわを幾重にも刻んだ70歳くらいの爺さんが、つい先ほどまで山で柴刈りしていたような恰好で店に入ってきました。爺さんは、非常に聞き取りにくい訛りのある声で何事かを食事中の客に言っていました。

その時、妻と一緒に食事していたのですが、爺さんは妻に向って話しかけて、じいーっと待っていました。何か売るつもりなのかと思っていたので、ぼくも妻も良くわからないふりをしてやり過ごしていました。

すると、爺さんは今度はテーブルの上にあるスパゲティーの皿を指さして、「これ、まだ食べる?」と聞いてきました。スパゲティーの他に、マンジョッカ芋やごはんにフェイジョン豆があり、全部食べきれなさそうだったので、「いいや、食べない。食べてもいいですよ。」と返事しました。

すると爺さんは、背中にしょっていたカゴの中から、黄色いファリーニャ(イモの粉)が入ったビニール袋を取り出し、その中にスパゲティーを詰めて、再びカゴの中に仕舞いました。その光景に度肝を抜かれたぼく達は、妙な空気が流れる中、黙々と食事を続けました。

爺さんは、ぼく達が座っていたテーブルの開いていた椅子(妻の正面)に腰かけ、何やら待っています。危険な人ではなさそうでしたが、かわいそうなのは正面に座っていた妻です。

しばらくすると、隣で食べていた家族がお会計を済ませて出ていきました。何となく予想はついていたのですが、爺さんはおもむろにテーブルを移動すると、「ああ~米のこしてるなあ~」とボソボソとつぶやきながら、客の残していったものをパクパク食べ始めました。もしかしたら、先ほど袋に詰めたスパゲティーは家でお腹を空かせている家族にあげるのかもしれないなあと考えると、とても不憫な気持ちになりました。

爺さんは、一通りごはんを食べると、ぼくらに「Valeu(ありがとう)」とかすれた声で言って去っていきました。

こういうおじさんが来たとしても、ブラジル人の店員は追い払っているのを見たことがありません。考えられる理由としては、①貧しいものに優しい、②邪険にすると何をされるか分からない、③雇われ店員なので興味が無い、辺りでしょうか。