インフレ大国ブラジル人特有の金銭感覚

ブラジルは1980年代後半から90年代前半にかけてハイパーインフレを経験しています。1990年3月には月間インフレ率が82%にまで達しています。安陪政権は年間インフレ率2%を目標にしていますが、90年のブラジルは「月間」インフレ率で82%でした。ハイパーインフレがどのようなものであったか、分かりやすいエピソード話が、こちらの本で紹介されています。

その1 一般庶民の話
レストランに入る前にメニューの値段を確認し、食事中にまた確認する。ゆっくり食べていると手持ちの金で払えなくなってしまう。

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80年代後半にブラジルに住んでいた日本人のIさんに伺ったところ、さすがに食事中に値段が変わるということは無かったが、レストランの値段が頻繁に変わったというのは事実だそうです。Iさんは、給与受取りの際に、当時の通貨であるクルザードをゴムで束ねたブロックで受け取っていたと述懐していました。また、Iさんは貨幣価値が直ぐに目減りするので、給与受取と同時にタバコやロングライフ牛乳を購入し、後でお金と交換するということをしていました。また、クレジットカードは、分割払いにすると最後の方の支払金額がインフレの影響で無料みたいな金額になるので、分割払いを最大限活用して、できるだけモノに変えるといったことが行われていました。

ハイパーインフレは、1994年にカルドーゾ大統領によって導入された「レアルプラン」の実施の成果で抑制されました。2016年時点では年間6.4%のインフレ率に落ち着いています。

ブラジル特有の値札表示

下の画像は、衣類棚の値札です。


値札には大きく45.90レアル(約1,600円)と書いてあります。

ブラジルに来て間もない頃は、「1,600円?めっちゃ、お買い得やん!」と喜んだものですが、これにはカラクリがあって、実際の値段は550.80レアル(約2万円)で1600円というのは勘違いでした。45.90レアルの左側に「12×」と書いてありますが、これは45.90レアルを12回分割払いで、550.80レアルで売りますよ、という意味なのです。

ブラジルでは、電化製品や家具、旅行費用など、比較的高額な商品の値段表示にこの方法が適用されています。これも、ハイパーインフレ時代の名残でしょうか。

商品の価格にインフレ分が上乗せされている

先ほどの画像ですが、45.90レアルとは対照的に小さい文字で、「ou R$459 a vista」という表示があります。これは、現金払い又はデビットカード払いすると、459レアル(約16,500円)で売りますよ、という意味です。ブラジルの商店では、かように商品の値札にインフレ分が上乗せされていることが多いのです。

価格交渉の際にも、「現金払いするから安くしてよ」という交渉は一般的に行われます。「ヴィスタ(vista)」というのは「目の前で」という意味がありますので、まさに「目の前で現ナマを払う」という事になります。A vistaを省略してAVと書くこともあります。ついでながら、クレジットカード一括払いは「ジレット(direto)=まっすぐに」、分割払いは「パルセラー(parcelar)」と言います。

クレジットカードを積極的に使う国民性

ブラジル国内航空券の購入の際に、ブラジル国内で発行したクレジットカードが必要になることが有るので、筆者もイタウ銀行のクレジットカードを保有しています。会費が毎月35レアル(約1300円)も引かれているわりには、サービスが悪くて不満に思っております。

クレジットカードは、引落の際に残高不足になるのが嫌なので、普段はなるべくデビットカードを利用しています。この話をブラジル人にしたところ、「高い会費を払っているのに勿体ないですね。ブラジル人は、分割払いにして支払いを遅らせるためにクレジットカードに入るんですよ」と言われました。お金の支払いは、遅ければ遅い方がよいのです。

ブラジルでは、日本のように年会費が無料というクレジットカードは多く無いようです。年会費無料カードには、ウォルマートの発行するイッペーカード(Hiper card)がありますが、利用できないお店も多いようです。

ブラジルでは普通預金が無い

ブラジルの銀行預金は日本と性格が異なります。まず、日本のようにいわゆる普通預金というものが存在しません。一方で、現金引出や小切手、クレジットカード引落などが行われる当座預金に該当するのが、コンタ・コヘンチ(conta corrente)と呼ばれる口座です。

当座預金には利息が付かないので、そのまま放置しておくと、インフレによる資産価値の目減りが起こってしまいます。例えば、2016年のインフレ率は6.4%だったので、2016年1月1日に当座預金に預けていた100レアルは12月31日には93レアルの価値になってしまいます。

一方で、この預金を運用口座(例:ポウパンサ(poupança)など)に入れておけば、金利が13%ほどついて、12月31日には113レアルになります。インフレによる資産価値目減りを考慮すると、106レアルです(=113レアル÷1.064%)

このように、ブラジルでは資金を運用口座に入れて、インフレによる資産価値目減りから防衛する必要があります。運用口座は、ポウパンサ(poupança)とよばれる口座が一般的ですが、他にもCDBやLCA、LCIなどがあります。運用口座は、30日以内に引き出すと金融取引税(IOF)が引かれて元本割れしてしまうのですが、30日経過すれば、元本の他に高い金利が付いてきます。

貨幣の現在価値感覚の研ぎ澄まされたブラジル人

長らく続いたデフレとゼロ金利政策で金利感覚が麻痺している日本人と比べると、ブラジル人の貨幣の現在感覚はするどいです。来月もらう100レアルよりも今すぐもらう100レアルの方が価値の高いことを身に染みて分かっているので、もらうお金はなるべく早く、支払うお金はなるべく先に延ばすように行動します。例えば、企業での出張旅費などは日本であれば本人が立替払いして、後で精算するということが行われますが、ブラジル人の場合には出張前に前払金を受け取って、それを運用口座に入れておくことにより、できるだけ資産の価値の目減りを防衛しようとします。

インフレや金利、貨幣の時間的価値を日本に住んでいる人に説明しても、実感が湧かないのか、あまり理解してもらえないと感じることがしばしばあります。物価が長年横ばいで、金利も付かない日本に住んでいると無理もない事とは思います。ファイナンスで勉強したことを実体験するためには、少しばかりブラジルに住むのも良い経験になるかもしれません。

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