素行の悪い人ほど得?ブラジルの退職金制度の謎

ブラジルで生活するに当たって、日本よりも敏感に研ぎ澄まされる感覚の一つとして、罰金や金利を如何に避けるかという感覚があると思います。ブラジルは、罰金が高くかつ高金利なので、債務の支払期限を過ぎて滞納した場合に、罰金や金利が累積して債務が納付しなければならなかった額の数倍に膨れ上がるというのは珍しくないからです。

ブラジルの退職金制度【FGTS】

ブラジルには従業員の退職に備えて、企業が給料の8%を毎月積み立てるFGTSという制度があります。

FGTSとは役務提供期間の保証基金(Fundo de Garantia do Tempo de Serviço)の略であり、労働者を理不尽な解雇から守るために1966年に創設された制度です。企業が労働者を雇用する場合、政府系金融機関であるカイシャ銀行(Caixa)に従業員名義の口座を作ります。企業は、毎月、従業員の給料の8%を基金としてカイシャ銀行の口座に振り込まなければなりません。FGTSは、毎年3%程度の利息で運用され、従業員が会社を退職した場合に引き出しが可能になります。

従業員が「会社都合」で退職する場合、企業は積み立ててきた基金の他に、50%を「罰金」として上乗せして支払わなければなりません。罰金のうち、40%は退職者本人に支払われ、10%は政府が徴収します。

問題はブラジルの場合、「会社都合」の退職が多すぎるという点にあります。

素行の悪い人ほど得する?

自己都合退職の場合、1ヵ月前に「退職願」を出してもらい、1ヵ月間で引き継ぎなどをしてもらって、粛々と退職日を迎えることになります。この場合、企業は従業員の退職日にFGTSの罰金50%を支払う必要がありません。

しかし、ブラジルの場合、清々しく退職日を迎えてくれる人はあまり多く無いようで、大抵の場合、次のようなリスクがあります。

  1. 転職先が同じ業界の場合、従業員が退職日までの間に企業機密をできるだけパクッて転職先にゴッソリ持っていってしまうリスク。
  2. 仕事をテキトーにこなすようになり、後で重要な問題(書類の誤りに基づく罰金、金利の発生等)を引き起こすリスク。
  3. いいかげんな仕事ぶりが周囲の人に悪影響を及ぼし、いいかげんに仕事しても良いと思わせる風土が感染してしまうリスク。

以上のような問題を避けるため、ブラジルでは従業員の素行に問題があると判明した場合、「きみ、明日から来なくていいから。」といって直ちにクビを切ることがしばしばあります。労働者の方でも、会社都合で解雇された方が、退職金が4割増しになることを知っているので、会社都合の解雇を狙おうとします。

「そろそろ会社やめたいなあ~」と考えた従業員はわざと素行を悪くして会社都合退職を狙うのです。
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真面目な従業員は、退職1ヵ月前に申告してもらい、1ヵ月間引き継ぎなどをしっかり行ってもらうにも関わらず、FGTSの受取額は100%だけです。反対に、素行の悪い従業員の場合には、引き継ぎもなく即日辞めてしまう上に、FGTSの受取額が140%になるという変な結果になるのです。気持ち的には真面目に引き継ぎまでしてくれた従業員にこそ割増で支払われるべきだと思うのですが、そういう制度ではないのです。

以前、仕事はしないわ、仕事中に副業はするわと目に余る素行の悪い従業員が居たんです。しかも悪いことに、彼は会社の機密情報を握っており、クビにしたら間違いなく労働裁判を起こして、会社に多大なる損害を及ぼすだろうと言われて、なかなかクビにできずにいました。結局、彼はクビになり、労働裁判も起こさなかったのですが、FGTSの罰金50%はちゃんと支払いました。感情的には、なぜ会社にとって害毒でしかない従業員のクビを切るのに、罰金と言う名目で退職金の50%を上乗せして支払わなければならないのか、という点が全然納得できませんでした。

定年退職の時にも罰金が発生

この記事のタイトルとは直接は関係ないですが、FGTSに関連してもう一つ不思議なことがあります。最近、長年会社を勤め上げた古株社員が60歳を迎えて定年退職しました。その時にも、会社はなぜかFGTSの罰金50%を上乗せして支払いました。

理由を確認したところ、そもそもブラジルには60歳になったら定年退職するという決まりが無いらしく、極端な話、従業員が死ぬまで勤め上げることもできるのだそうです。公的年金がもらえる60~65歳で定年退職するのが一般的ですが、年金が少なくて生活できない人は退職せずに60歳を超えても働くことができるのです。

つまり、FGTSは、たとえ定年退職であったとしても本人が辞めたいと言ったのではない限り「会社都合退職」となり、企業は罰金50%を支払わなければならないのです。こうなると、もはや「罰金(Multa)」という名称は実態を表していないのではないかと感じますね…。