ブラジルで銀歯をセラミックに取り換える

今でこそ歯周病は万病の元であるということは、歯科医の書いた本などを何冊か読んで理解も進んでおり、歯のケアには充分に気を付けていますが、子供の頃はオーラルケアに無頓着だったので筆者の奥歯には沢山の銀歯がはめられています。銀歯の数は15本で、虫歯の無い歯(13本)よりも多いのです。

銀歯をセラミックに取り換える

銀歯の下で虫歯が進行するリスクや、銀歯が溶けて歯茎に色が付くリスクがあるといいますし、銀歯をセラミックに取り換えられないかと以前から考えていました。

ところで、ブラジルでは日本よりも歯科矯正するのが一般的で、歯科矯正が日本と比べるとお手頃な価格(10万~15万円程度)でできます。また、ブラジルでは歯科治療の際に銀歯をはめることが無いと耳にしたことがあります。

上記の事実を考え合わせると、もしかしたら筆者の銀歯をセラミックに交換することも低予算で出来るのではないか、と想像し以前にもお世話になったことのある日系三世のジョン・カルロス・ヤマウチさんという医師(以下、山内医師といいます。)の歯科医院に行って相談することにしました。

お前はガリンペイロか?

銀歯が沢山はめられた私の歯を見た山内医師は、珍しいものを見たという顔で次のようにいいながら豪快に笑いました。

「メタルがいっぱいで、ガリンペイロ(ブラジル金鉱山の鉱夫)みたいだ!もしブラジルでこんな治療をしたら患者に悪態つかれて(Xingar)訴えられるよ(Processar)。はっはっは!」

ガリンペイロといわれて、垣根涼介の『ワイルド・ソウル』に描かれていたワンシーンを思い出しました。

そういえば、日本人のAさんがブラジルの田舎に行った時に、Aさんの銀歯が珍しかったらしく、沢山の子供たちに囲まれて「みんな、見てみて!アイアン・マン(鉄の男)が居るよ!」と人気を博したのだという話を聞いたことがあります。

山内医師曰く、日本は世界で最もセラミック義歯の技術が進んでいるのに、なぜこんな時代遅れの治療がいまだに行われているのか理解に苦しむとのことでした。

歯科医師の小峰一雄医師の著書によると、その理由として以下のものが挙げられていました。太字は筆者が編集。

なぜ日本の歯医者はためらいもなく、若い永久歯を削ってしまうのでしょう。なぜ予防に力を入れたり、できるだけ温存するなどの方法をとったりしないのでしょう。理由の1つに、歯医者自身の知識不足があるかもしれません。しかし実際のところ、現在の医療保険制度では歯を削らないと診療報酬がもらえないため、削らざるを得ないのです。

もしわれわれ歯医者が患者さんの口の中に、虫歯になりそうな歯を見つけ、予防的な処置をしたとします。その結果、虫歯にならずに済めば、患者さんにとっては大きなメリットですが、予防歯科は保険の対象外なので、患者さんの負担は高額になります。一方われわれ歯医者から見ても、もし患者さんが虫歯にならなかったら歯を削ることができず、歯医者は儲からなくなってしまいます。

歯に詰めたり、かぶせたりする金属などの材料にも制限があるため、次々によい材料が開発されても、保険では決められたものしか使用できません。
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セラミック義歯への交換ではなく樹脂(レジン)を被せる?

山内医師曰く、ブラジルでセラミック義歯を取り付ける場合、1本当たり1,500レアル(約5万3千円)かかるそうです。大きさや材質によって、値段は変わると思いますが日本でセラミック義歯を取り付けるのとそんなに変わらない金額です。ブラジル人にとっては大卒の初任給くらいの金額であることを考えると、えらく高いです。

筆者の場合、銀歯が15本あるので、1,500レアル×15本=22,500レアル(約790,000円)かかる計算になります。高いですね…。しかし、この後45年生きると仮定した場合、一日当たりのコストは48円です。そう考えると、安いです。

しかしながら、山内医師の言葉で、筆者のセラミック義歯取替作戦は大きく方針変更を迫られました。

「唐木さんの銀歯はセメントでしっかりと接着してあるので、銀歯を取り除いてセラミック義歯を入れるには、本来の歯を沢山削らなければならないので、おすすめしません。それよりも、銀歯の表面を削って銀歯の土台の上から樹脂(レジン)を被せたほうが良いですね」

本来の歯を沢山削らなければならない、というのは歯の健康を考えると本末転倒な気がします。先ほどの小峰医師も、次のように書いていました。

みなさんもご存じのようにガラスはキズが付くとひびが入り、非常に割れやすくなります。同じように虫歯で削った歯は、削った部分だけでなく、目には見えない無数のひびが全体に入った状態になります。そこに、たとえばインレー(歯の詰めもの)のような金属を装着すると、それがくさびのような働きをして、一気に歯が割れてしまうことがあるのです。
つまり歯を削ると、そのときにあった虫歯の治療はうまくいったように見えますが、長い目で見ると歯そのものの寿命を短くしているのです。

試しに一本やってみた

樹脂は寿命が短いという話を聞いたことがあるので不安だ、と山内医師に伝えると、彼は次のように言いました。

「確かに、樹脂はセラミックに比べるともろいが、それでも最近の樹脂は長い期間もつようになっている。固いものを食べると欠けることもあるだろうが、その場合はその欠けた部分だけ、また樹脂を被せてあげればいいのさ。試しに一本だけ、下あごの銀歯に樹脂を被せてみて、気に入ったら他の歯もやればいいよ」

一本だけ試しにやってもらったところ、予想以上の出来栄えが気に入ってしまい、結局、外から目立つ下あごの銀歯を全部樹脂で被せてもらうことになりました。ついでながら、ブラジルでは樹脂(レジン)のことをヘッジーナ(Regina)と呼びます。最初、山内医師がヘッジーナと繰り返し言っている時に、女性の名前を言っているのかと勘違いし、話を飲み込むまでに時間がかかりました。山内医師が使ったのは、FGM社のOpallisという樹脂でした。

施術内容

山内医師の施術は、銀歯の表面を削り、銀歯の土台を利用して、その上に樹脂を被せるというものでした。施術で一番大変なのが、銀歯の表面を削る作業でした。想像以上に固かったらしく、なかなか削れません。山内医師も腕が痛くなったらしく、途中で「カランバ!(Caramba)*1」とか「ガロット!(Garoto)*2」と叫んでいました。

*1 驚いた時に、ブラジル人が発する言葉。特に意味はありません。
*2 男の子という意味。アメリカ人が「Oh, boy」というのに近い意味で使用される。

当初、この施術は1本150レアル(約5,300円)だったのですが、あまりにも銀歯が固いので、ドリルの先端の摩耗が激しく、1本200レアル(約7,000円)に値上げされてしまいました。カランバ!

施術結果

下あご7本の銀歯を3回に分けて施術してもらいました。最後の施術の日、山内医師はスマホを取り出してこう言いました。

「見違えるようにキレイになったね。結果に大変満足してる。たぶん患者である唐木さんよりも嬉しい。写真を撮ってもいいかい?写真は、インスタグラムに載せてもいいかな?顔は出ないからね」

こういうやりとりは、日本の歯科医院ではありえないと思います。いかにもブラジルらしいです。

最後に、施術結果を写真でご紹介します。決して美しいものではないので、ご覧になりたくない方はスクロールせず、ここでブラウザを閉じてください。

BEFORE

歯科矯正前にレントゲン屋で撮ってもらった写真です。

AFTER

樹脂をかぶせてもらった後に、自撮りした写真。銀歯の土台を利用しているので銀歯が透けて見えますが、上の写真と比べると大分マシです。ちなみに、前歯の針金は歯科矯正のためのものです。

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