ブラジルのシンボル、コッポ・アメリカーノはソビエト生まれ


ブラジルの居酒屋(ボテッコ)で冷たいビールを飲む時に良く利用されるコップで、コッポ・アメリカーノ(copo americano)というものがあります。ビールに限らず、コーヒーや豆スープを飲むときにも利用されます。料理のレシピで、材料の必要量を量る時などにもこのコップが単位になっていることがあります。

コッポ・アメリカーノは190mlが一般的な容量で、1個1レアル(35円)以下という廉価で買うことができるため、ブラジルの一般家庭にも普及しています。筆者も自宅でビールを飲む時にはコッポ・アメリカーノを利用しています。

このコッポ・アメリカーノ、現代においてはブラジルを象徴するモノの一つとして、広くブラジル人に愛されているのですが、その起源はソビエト連邦にあります。

コッポ・アメリカーノの歴史


コッポ・アメリカーノは、ブラジル企業のナジール・フィゲイレード社(Nadir Figueiredo)の商品で、第1号が製造されたのは1947年のことでした。

コッポ・アメリカーノを日本語にすると「アメリカのコップ」という翻訳となります。コッポというポルトガル語の単語はほぼそのまま日本語になっていますね(=コップ)。ではなぜ、ブラジルで製造されているのにあえて「アメリカ」なのでしょうか。気になります。

コッポ・アメリカーノは、メーカーの創業者ナジール氏が当時アメリカで製造されていたコップにインスピレーションを受けてブラジルで製造・発売したものでした。コッポ・アメリカーノは、ベーシックで無駄のないデザインがブラジル人に愛され、「ブラジルの公式コップ」と認知されるほど普及しました。

ニューヨーク現代美術館でブラジルのシンボルとして紹介

2009年、ニューヨーク現代美術館(MOMA)の企画展「DESTINATION BRAZIL」が開催されました。この企画展で、ブラジル・デザインのシンボルとしてコッポ・アメリカーノが紹介されました。同じ年には、ブラジルの雑誌VIP、EXAMEが「ビールを飲むのに最適なコップ」としてコッポ・アメリカーノを選んでいます。

ブラジル人は、冷えたビールに強いこだわりを持つ民族です。コッポ・アメリカーノであれば容量が小さいのでコップに注いだビールはぬるくなる前に飲み干すことができます。ブラジルでこのコップが普及したのは、そんなこだわりとも関係があるかもしれません。

ソビエト・グラス

ナジール氏がアメリカのコップと思ったのは実は勘違いで、実際にはソビエト連邦の女性彫刻家(Vera Mukhina)が1943年にデザインしたソビエト・グラス(Soviet glass)でした。

ソビエト・グラスの形自体は、Mukhina 氏が考案したのではなく、1940年代にソビエトで発売された皿洗い機の形に合わせるために考案されたものと言われています。ソビエト・グラスは、多角形で持ちやすく、かつ、頑丈な造りを特徴としていました。

ソビエト連邦のフルシチョフ議長は、ソ連のアルコール依存者を減らすための政策としてウォトカをバルク販売するのを禁止したため、市場に出回るのは500mlのボトルのみとなりました。ソビエト・グラスは、この500ml瓶のウォトカを3分の1に分けて飲むのに、丁度良い容量(167ml)でした。フルシチョフの制限が発令されてからは、呑み助が3人で集まって、仲良くウォトカを分けて飲むということが良く行われたといいます。

ソビエト・グラスは、当時のソビエト家庭に大変普及していました。料理のレシピでは、液体や粉末を図る単位にソビエト・グラスが利用されていたと言います。この辺は、現代のブラジルの状況と良く似ています。

ソ連の解体後、ガラスの製造技術の発達におりソビエト・グラスは製造されなくなり、以前のように一般的ではなくなってしまいました。

ブラジルではスーパーなどで簡単にコッポ・アメリカーノが手に入ります。地味ですが、ブラジル気分を味わうには良いアイテムのひとつだと思います。

ナジール・フィゲイレード社サイト